嘘も愛して
「一年、塩川研真!」
隣の席のゆるふわ系……。
「一年、保泉仁彩!」
びくっ。私の名前が体育館に響いた。どっと緊張が全身を駆け巡り、強ばっていると、
「おっ、早速あたるなんてラッキー」
だぼだぼの袖を口にあて、好奇心を抑えきれていない口元を隠した少年が、観衆のど真ん中、舞台へ上がった。
私も、意を決して舞台へ上がる。と、途端に会場がざわつき出した。
予想通りの反応。だけど、舞台に上がってしまえば、周りなんて気にならなくなる。私は真っ直ぐ、対戦相手に向き直る。
「期待しなくていいよ」
「んじゃー、各々、嬲り勝て!」
「いっくよー!」
うおおおっと、歓声が上がったと同時に少年は駆け出した。
脇腹目掛けて回し蹴りのモーションに入る、それを見て私は無駄な動作を省いて半歩ひいて避ける。
「ねぇ、僕さ、正味お嬢さんのことなめてたよ。見かけによらず……とは考えてはいたけど、こんな、こんなにわくわぬするなんてさぁ、思わない、じゃん!」
言いながら蹴りを入れ、私はまた避ける。
「期待しないでとは言ったけど、負けましたなんて言ってないでしょ?」
「ほんっと!こんな嬉しい読み違いするとか、僕ラッキー♪」
その後も繰り出される拳も蹴りもスレスレのところでかわす。
柔軟に動く私に少年も合わせるように動きが強くも柔くなる。
まるで、二人で踊っているかのような攻防が続く。
うわ、すげぇ何この動き……読めないじゃん。なんて少年が思っていることも知らず、私は避け続ける。
「なんだこの二人」
「すげぇ、喧嘩のくせに、綺麗だ」