嘘も愛して
少年も、観衆も魅入ってしまうほど、その喧嘩は喧嘩と呼ぶにはあまりにも美しかった。後日クラスの人たちが噂しているのを聞いた。
でも、勝たなきゃ意味がない。そろそろ倒れてもらうよ。
ダンっと勢いよく左足を踏みしめた。そして、右足を天に振りかざし、そのまま下ろした。
「!?」
少年は間一髪のところで避けた、がそのまま尻もちをつく。
私は勢い余って少年の顔横スレスレに足を振り下ろし、体勢が前のめりになってしまった。
間近で目が合う。少年はぱちりと目を見開き、まるで虹色の宝石を散りばめたかのような瞳で私を認めている。
「きゅん……」
「へ?」
「そこまで!勝ち残ったのはまさかの〜可憐な少女!保泉だー!!」
再び歓声に包まれる体育館の中心、私は体勢を整え、少年に手を差し伸べていた。
少年は袖越しに手をとり、二人で舞台を降りた。
すぐさま次の対戦が始まり、漸く人の視線から開放された私は少し外の空気を吸いに体育館を出た。
「あー、楽しかった!また殺ろうね!ね!」
!?
弾んだ声に反射的に距離をとる。さっきのゆるふわ系少年がにっこにこで私を見ている。
犬みたい……。
苦笑いを返すと、少年は勢いよく私に向かってきた。
なんで!?
かわす余裕もなく、私は何故か少年に抱きつかれてしまった。本当に犬みたいに。
「もぉ……近い、抱きつかないで……」
「えー!なんでなんで!僕お嬢さんのこと気に入っちゃった!」
むぎゅうっと腕の力が強くなってくる。顔も近いし、なんでこんなに目を輝かせてるのこの子……。
「はーなーれーてー」
無理やり犬をひっぺがし、深くため息をつく。休憩したかったのに傍を離れない犬ができてしまった。
少年は段差に腰かけ、だぼだぼの袖で手招きしている。座りたかったし、また抱きつかれるのも嫌だった私はそれに従った。
「僕ら組んだら最強じゃん?」
「組むって…君はなんでこの高校に来たの?」
「えー、楽しそうじゃん、強い人が集まって頂点の奪い合いするってだけでわくわくする!まぁ最初はトップに興味あったんだけどぉ」
「だけど?」
「んー、期待はずれだね!アハハ」
表情は笑っているのに、目は冷めていた。
あんなに人懐っこい犬のように無邪気だった態度から一転、少年はさもつまらなそうにいている。