嘘も愛して
少年に声をかけようと口を開きかけたその時、背中に知らない声がかかる。
「よぉそこのちびすけ共」
二人して肩越しに後ろを振り返る。そこには金色の短髪男が仁王立ちしていた。
「俺は蘭。城野兄弟の兄貴といえばこの俺よ。噂は聞いてるぜ、保泉」
名指しされ、私の中で勘が働く。
「……最悪」
あのクソ男の犬、そういえば同級生だった。ネチネチ言われない前に消えちゃいたい……。
「まてまて、兄貴。兄貴の相手はそいつじゃないって」
視線を落としていると、また別の声が割って入ってきた。
今度は黒染めしたであろうツンツン短髪男が現れた。刈り上げ部分にZを入れている。ぽんっと、金髪の肩に手を置く。
「おっと、先走っちまった。ごめーんね」
パチッとウインクして舌を出す仕草に、私は頬がひきつる。
可愛くないって……。
「お嬢さんに何の用〜?」
「ん?あぁ。お前さんに俺っていうイケてる男を知ってもらいたくてな」
くいくいっと、人差し指を動かし、金髪は凄んだ。
「お前さんの覚悟見て、ウチの大将が決めたんだよ。やり合おうぜ。敵の実力くらい知っておけよ」
そういう、こと。あの観衆の中には皇帝流座の連中が当然いた訳で、あの場に立った以上見られていると踏み切っていた。
けど、こんな堂々と啖呵切られるなんて、やってくれる。
「のった」
短くそう返し立ち上がる。その様子に金髪は汚い笑みを浮かべて前髪を垂らした。
「ほんじゃ先行ってるでなー」
後ろ姿のまま片手をふりふり上げ、彼らは立ち去った。傍らで、ん〜っと伸びをする少年。
「お嬢さんって人気者だよねぇ。この前も絡まれてたしー」
間違いないと、薄ら笑いを浮かべ、私たちは会場へ戻った。
観戦できる場所まで行くと、既に歓声の中心に先程の金髪が堂々と仁王立ちしていた。ちょうど対戦が始まる頃だ。
相手はごつい体つきの人で、金髪は身長も負けている上、体格もいいとは言えない体つきだ。
だけど、今一番強い奴が集まる皇帝流座のエース。侮ってはいけない。
始まる――――
対戦が始まって速攻、金髪が仕掛ける。
「分かってはいたけど、強いよねぇ、あの二人」
「うん」
攻防が続くかと思われたその試合は、圧倒的な力の差で、金髪が押していた。
「でも組めないからなぁ、つまんなーい」
「向こう側の人って知ってるんだ、君」
「んー?そりゃあね、つく王は間違えたくないしー」
強い人が集まる現最強チーム、皇帝流座。そのエースの強さを目の当たりにして尚、少年の決意は変わらない様子。
「てか、その呼び方嫌。名前で呼んでよ、そうだなぁ……硏ちゃんにしよ!」
少年は試合には満足し、既に興味をなくしている。またぐいっと間合いを詰め、顔を近づけてくる。
「もぉ、距離感おかしいよ……」
「よーんで、ねぇよんでよー」
今にも抱きついて来そうなほど近い。
「……硏、ちゃん」
渋々少年の言う通りに呼んでみた。すると少年は目をより一層輝かせ、声も上擦った。
「いいねぇ!僕の宝物最高!」
「宝物?」
「うん!失いたくないものってこと」
「っ……」
寸分狂うことなく、言い放つ。胸を打たれるほどに、少年の言葉はきらきら輝いていた。