嘘も愛して
やば……!けど、私は体重に任せて体を彼と反対の方へ逸らし、その腕から逃れる。
一回転し、元の姿勢に戻った時、彼も崩れていた上体を戻し、お互いに身構えていた。
「へぇ、やりようによっては、か。確かに、逃げ一手はあんたに分があるか」
前髪をかきあげ、見下すポーズをとるその様子は余裕綽々で鼻につく。もう一ミリも触れさせない……!
「君に従うつもりはないからね」
少し虚勢を張ってしまったが、彼は何故かにやりと唇を笑ませた。
予想外の反応な上、憎たらしいほど自信満々に最早断言に近い力強さで言い放つ。
「捕まえてやるよ、仁彩」
鋭くも艶のある眼差し、異論を認めない真っ直ぐな言葉は私を絡めとってまとわりついてくる。
好きな人以外にこんな感情を抱くのは初めてだった。
好きだから、という無条件の理由ではない、ただ単純に、御織空周という人間の目に見えない引力によって生まれる事象。
惑わされちゃだめ。私は私の決めたことを貫いて、それが正しいんだって証明するだけ。
再び避けては蹴りを繰り出してのループが続く。
やりにくいんだよ……。
怪訝そうな顔つきになってきた空周だったが、
「ほら、跪け」
口だけは達者で切れ長の目で私を捉え続けている。