嘘も愛して
この提案、のむよね?
どこからか自信満々なごり押しの考えが出てくる。
「……いいぞ、仁彩。俺はあんたをいつでも捕まえれること、覚えとけよ?」
彼はさも満足そうにふっ、と笑い、ほんの少しだけ力を緩めた。
「今日限りだよ」
いつでも逃げれるんだから。
「へぇ……」
目を細め、撫でるような視線に、耐えきれず私は眉を顰める。
「あ、あの、話すから……離してほしいんだけど……」
「……仁彩」
「っ……」
思わず、ハイと答えそうになる。どうしようもなく恥ずかしくなってきた私はたぶん、頬が紅潮してしまっているのだろう。
もう、彼の目を見ることが出来ない。その様子を間近で満足そうに堪能する王様は、
「やっぱり女だな」
意地の悪い笑みで私を捉えている。
「ばっ、か!何言ってるの」
もう我慢できない!
私は掴まれていた手首を回し、肘を上げて振り払い、ふんっとそっぽを向く。
おちょくられて無性に腹が立つ。気持ちが高ぶっているのもあるけど、何か気に食わない。
私は自分の気持ちを沈めるため、現況の王様を視界に入れないようすたすたと距離を置きに行った。
その後ろ姿を眺めていた彼は小さくぼやいていた。
「逃げれないふりしてたか」
払われた手を眺め、傍に寄って来た人影に流し目を送る。
「いるみ」
「はい」
「俺は先に行く。仁彩を連れて来い」
「おーけー」
彼はいつもの澄ました表情に戻っていた。