嘘も愛して



 私はへなへなと力が抜け、自分で並べたパイプ椅子の一つに腰かけ、膝を抱えた。

 涙はこぼれ落ちなかったが、込み上げてくるものをしまうのに必死で、急に降ってきた声に体をビクつかせる。


「あれが現皇帝?ぬるい奴だ」


 知らない声だ。体育館の入口に目をやると、背の高い影が片手で扉に寄りかかり、もう片方で靴を脱いでいた。

 私は慌てて込み上げてくるものを引っ込め、その影に向き直った。好戦的な声色、気取られてはいけない、隙を見せてはいけない、反射的に動いてしまった。



「?」

 それを見ていた背の高い影は一瞬眉を上げたが、すぐに不敵な笑みで余裕を見せながら近づいてくる。


「あんた、あのクズダサ皇帝気取りと知り合いか?いや、あの顔…知り合いなんて生ぬるいもんじゃないよな?」


 なっ、何この口の悪さ!

 前髪をかき上げ、ただでさえ見下ろしてる姿勢からわざわざ顎を上げ見下す男。


 鋭く利く切れ長の目に反してその瞳は美しく、思わず見とれてしまう色男がそこにはいた。襟足の長い髪はさらさらで軽いせいか、ふわふわとしている。



 あまりに衝撃的な登場と言葉遣いに困惑する私は、それでもその男の鋭くも美しい眼孔から目が離せずにいた。

 とりあえず関係性は伏せておこう。



「そんな人知りません。君は見ない顔だけど、新入生?」


「だったら?」


「まだ入学式の準備終わってないのっ。ほら、準備するからあっち行って」


 上手いこと話をそらせた。私は視線をはずし、ぺっぺと手のひらで払う。これ以上付け込まれたくないし、何より、この人怖い!


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