嘘も愛して
第1話 新しい風は荒々しくも繊細で
万葉高校の入学式は、私にとって思わぬ出会いを運んできた。よりによって、年下に野良猫呼ばわりされるなんて。
あの場をなんとか切り抜けたはいいけど、私の隠居ライフがめちゃくちゃなことになりそうなことに変わりはなく。
その後のはちゃめちゃにどんちゃん騒ぎになった入学式になんか興味はなく、私はただ、新学期をどう静かにスタートさせるか考えていた。
って考えても仕方ないし、なるようになるよね。
マイナス思考をやめ、私は新しい教室の扉を開けた。
途端、ばちばちと、冷たく刺す視線が注がれた。見ない顔しかいないのに、向こうは私を知っていて、それもいい印象ではないことがその一瞬で読み取れる。懸念していたことが見事に的中。
私は誰とも目を合わせず、自分の席に着いた。
「ねぇねぇ、ねぇお嬢さん」
ふと、隣の席に座っていた男の子が声をかけてきた。見ない顔、クリーム色のくせっ毛の髪を無造作にふわふわさせている。
中学生に見えるほど幼い顔立ちの彼は、ダボダボの袖を頬にあて、こちらを見ている。
「お嬢さんって強いの?」
「え……どうして?」
「だぁって初日から注目の的じゃーん。有名なんしょ?」
あー、と私は苦笑いし、頭の中で頭を抱えていた。有名にもいろいろな理由がある。そして彼の中で私の理由はつらないもの。言いにくい。
彼はつり目のきらきらした好奇心に満ちた瞳でこちらをずっと見ている。期待に添えなくて申し訳ない、別に私は喧嘩が強くて有名なわけじゃないのだ。
「強そうに見える?」
「見えないね。でも、人は見かけによらないんだよねぇ」
「あはは……」
そっくりそのまま返したいくらい、彼は幼い顔をして経験は積んでいる。私はから笑いで会話を終わらせ、ふぅっと自分の席に向き直った。