ハイスペ上司の好きなひと
「話にまとまりがなくて悪い。何が言いたいかって言うと…お礼が言いたかったんだ。…ありがとう、古賀」
力無く綻んだ笑顔はいつもの色気や大人びた雰囲気は無くて、年齢よりもずっと幼く見えた。
それが本来の彼の素の表情なのだと今なら分かる。
相変わらずずるいなあと思うのに、彼を好きな気持ちが無意識にそれを凌駕してしまっているのだからもうどうしようもない。
やはり、離れるのは良い機会かもしれない。
少し貯金の方を疎かにしてでも早めに引越しの目処を立ててしまおうと心の中で思いながら、紫は笑顔を返した。
「それはこちらもです。いつも気にかけてくださってますし、1番困ってた時に手を差し伸べてくれた恩はこんなもので返せるものじゃないですよ」
「恩なんて大袈裟な」
「まあまあ。熱がまた上がったら大変なので食べたら早く休んでください。出張は再来週ですよね?それまでに直しておかないと!」
そう言ってさあ食せと言わんばかりに手を差し出せば飛鳥は素直に頷き残りを全て食べ終えた。