ハイスペ上司の好きなひと
スポドリだけ残して食器を持って部屋を後にしたのだが、キッチンに立った瞬間気が抜けたのかその場にへたりと座り込んでしまった。
ーーありがとうって…言ってもらえた
特別な言葉でも何でもないのに、何気ないひと言が嬉しくてたまらない。
離れようとした先程の気持ちに嘘はない。
飛鳥にお礼を言われて舞い上がってしまう気持ちも、同時に離れた方が良いと思う気持ちもどちらも本音だ。
けれどそれを伝えるのはもう少し先でも良いかもしれない。
例え勘違いでもそう思えるくらい、好きな人から紡がれた言葉は理性を鈍らせるには十分だった。
けれどそれが本当に唯の勘違いでしかなかった事を、この時の自分には知る由もなかった。