ハイスペ上司の好きなひと
「始業前に軽く目を通しておこうと思ったらこんなになっちゃった」
「お、お手伝いしますね…!」
ごめんねーと眉を下げながら言うものの、入社当時からこんな感じなので今更特に何も思わない。
入社初日に課長から頼まれた最初の仕事が彼女のデスクの整理の手伝いだったことは今でも記憶に新しい。
出社してすぐはまばらだった人も次第に社員達が出社を始め、復帰した藤宮を見ては「おかえり」やら「早速オーバーワークしてるのか」と揶揄われたりしていた。
そうしながら2人で整理を続けていると藤宮が突然あっ!と声を上げた。
「これ総務に持ってくるよう言われてた書類!こんなところにあったんだ」
言うや否や藤宮はちょっと行ってくる!と慌ただしくかけ出していった。
その背中を大丈夫かな…と思いながら苦笑いで見送る。
藤宮は言葉を選ばず言えば総務から目をつけられており、その原因というのが彼女の悪癖のせいだという。
どうも結婚前まではそれはもう残業も休日出勤も厭わぬ働きぶりで出世は早かったがその分幾度となく超過残業に対して苦言を呈されており、遂には総務部長から何度も直々にお叱りを受けていたらしい。
紫が入社した時には既に妊娠もしていたしオーバーワークもなりを潜めていたので今に至るまで先輩方から話に聞くだけでいまいち信じられなかったのだが、こうして時短にも関わらず朝早くから出勤しているところを見るに嘘ではなかったのだろうと思い至る。