ハイスペ上司の好きなひと
「え、なんで始業前に…?貴女時短でしたよね?」
珍しく狼狽える様子を見せる飛鳥だか、紫はそれ以上に動揺していた。
ーー今、なんて言った…?
一瞬頭の中が真っ白になったが、間違いなく飛鳥は"しらかわ"と口にした。
あの日、酒に溺れて帰ってきた日、苦しげに口にしていた名前を。
…藤宮に対して、そう言った。
「復帰初日だから、出来るだけ迷惑かけないように早めに来て今の状況を把握しておきたかったんだよ」
「いや何してるんですか…時短の意味分かってます?」
「あらら、遂に後輩にまで怒られたか〜」
あははと頭に手を添えながら笑う藤宮は、違う苗字で呼ばれたにも関わらず特に否定しようとしない。
ドクドクと嫌な音を立てる心臓を抑えながら、紫は恐る恐る尋ねた。
「あの…藤宮係長、さっき主任が白河さんって…」
「ん?ああ、白河は私の旧姓だよ。飛鳥くん時々呼び間違えるよね」
「入社した時からそう呼んでたんでまだ慣れなくて…」
「まあ仕方ないよねえ。会社で書き分けるの面倒だから変えたけど、今でも旧姓で呼ぶ人は多いよ。一ノ瀬くんとか特にそう」