ハイスペ上司の好きなひと


私としてはどっちでもいいんだけどねと笑う藤宮の言葉に、上手く返事が返せなかった。

だって当たり前じゃないか。

ずっと気になっていた飛鳥の忘れられない人というのが、つい今しがたわかってしまったのだから。


ーー藤宮さんの事、だったんだ…


そうすれば全てのピースが驚くほどはまっていく。

飛鳥ほどの男がどうにかなることは無いと断言した意味も、彼女が既婚者だったから。

一ノ瀬が誰かは絶対口にしないと言ったのも、藪を突くなと釘を刺したのも、同じ会社の上司だったから。

結婚式の日に譫言のように彼女の名前を呟いたのも、久しぶりに対面して想いが溢れてしまったから。

フランスでラファエルが彼女の名前を出した時に一瞬だけ見せた暗い表情も、今でも藤宮の事を想っているから。

…何より、それほどまでに強烈な想いを抱いている相手が藤宮である事に、自分が1番納得してしまっているから。


美人で優しくて、仕事ができて、それでいて可愛くて…そんなの誰だって好きになる。

自分だって漏れなく彼女のことは尊敬しているし好きだ。

だからこそ、天地がひっくり返っても敵うことのない相手が飛鳥の想い人だったと知り、そこにはもう絶望感しか無かった。



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