ハイスペ上司の好きなひと


ようやく肩の力を抜くことが出来た紫は、その背中を見送って深いため息を吐いた。


「大丈夫?」
「課長代理…ありがとうございます。本当に助かりました」
「いーよ。こういうの初めてじゃないし」
「はは…やっぱりそうなんですね…」


疲れ切った声を出す紫は、弁当の袋を広げて電子レンジにそれを入れた。


「頑なに断ってたけど、古賀ちゃんは気にならないの?飛鳥の事」
「気にならない…と言えば嘘になりますけど」


温めの残り時間をぼんやりと眺めながら一ノ瀬の質問に答える。


「以前、流れでそうなのか聞いた事があって…安易に聞いてしまって後悔しました」
「…話したの?飛鳥が?」
「どなたかは知りません。けど、想う人は確実にいらっしゃるんだなとは思いました」


ピーッという電子音を聞き、紫は中から弁当箱を取り出した。

ふと思い浮かんだ飛鳥の表情を振り払う。

思い出しただけで胸が締め付けられる程の顔だった。

取り出した弁当に蓋をして向き直ると、一ノ瀬は少しだけ目を丸くしていた。


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