ハイスペ上司の好きなひと
「どうされました?」
「いや…古賀ちゃん、いい子だなと思って」
「はい?」
今の会話で何をどう捉えてそう思ったのか訳が分からず首を傾げた。
するとそれまで少しだけピリついていた一ノ瀬の雰囲気が和らいだ気がした。
「飛鳥の下についたのが君で良かったよ」
「?よく分かりませんけど、それは私の方です。主任には怒鳴らず丁寧に仕事を教えていただいてとても感謝しているので」
「君一体前の会社でどんな扱い受けてたの」
顔を引き攣らせた一ノ瀬に内緒です、と笑って返し、最後にもう一度お礼を伝えて給湯室を後にした。
ーー君で良かった、か…
恐らく飛鳥の気持ちを無視して彼の心に土足で踏み入ろうとしない自分の態度を言ってくれているのだろうが、生憎とそんな綺麗なものではない。
ただこれ以上ぬかるみに踏み込んで、傷付かないように自分を守っているだけだ。
何かのきっかけで自覚してしまう、そんな予感があったから。
そうして自分のデスクへ戻り、レパートリーの少ない自作の弁当を味気なく突くのだった。