親分と子分のアイマイな関係

03

 二限の美術の授業はノリノリで受けたけど、あとは机に突っ伏して寝ていた。

 もうすぐ中間テストがあるらしいけど、誰もそんなことは気にしていないだろう。

 男子生徒たちは、もっぱら【トップ】の座を奪うとか、せめてその恩恵に預かるとか、そんな話ばかりしていた。

 それに加わらないのが悠里だ。

 悠里はどの派閥にも入っていない。

 下校もいつの間にか、あたしと二人でするようになっていたんだけど……。



「おい! 白鷺(しらさぎ)!」



 悠里と二人で廊下を歩いていると、三人組に阻まれた。

 白鷺というのは悠里の苗字だ。



「……なんすか」



 仏頂面で吐き捨てる悠里。三人組の中でも、一番大柄な男子生徒がずいっと前に出てきた。



「お前、いつまで野良でいる気だ。チームに入ってない奴は……いつボコられても文句は言えねぇってさすがに知ってるよなぁ?」

「はぁ。まぁ。親分、一分間待っててください」

「よし、任せた!」



 実は、入学して以来、この手の襲撃は初めてではない。

 竹馬に乗れなかった弱気な悠里はもうどこにもいない。

 もうあたしなんかが守らなくてもいい、ずっとたくましくなった。

 特に時間を見てはいなかったけど……体感で本当に一分間くらいで、悠里は三人を続けざまにぶん殴って床に張り倒してしまったのだ。



「さっ、行きましょう親分」

「おー、ご苦労、ご苦労!」



 苦し気に呻く三人をひょいとまたいで、あたしと悠里は高校を出た。

 さて、高校時代の醍醐味といえば、下校時の寄り道だ。

 といっても、あたしも悠里もそんなにお小遣いを貰っているわけじゃないから、ささやかなものに限られる。

 自動販売機でコーラを買って、公園のベンチに腰をおろした。

 悠里は一口缶に口をつけると、こう言った。



「あいつら、嫌いだったんだよね。弱いくせにさ」

「そうだったんだ?」

「……前に、顔のことも言われたし」

「ああ……」



 悠里のお母さんはロシア人だ。悠里の金髪は地毛で、堀の深い顔立ちのせいで、誰が見てもすぐに外国人の血が入っているとわかる。

 あたしと悠里が出会ったのは、どうやらゼロ歳の時らしい。

 だから、第一印象なんて覚えていないし、悠里の顔といえばこうだ、っていうのは当たり前の事として受け入れていたんだけど、悠里自身はこの顔が嫌みたいだ。



「あたし、好きだよ!」


 ちょっとでも励まそうと思って、あたしは口を開いた。



「えっ……好き?」

「うん、悠里の顔、好き! 外国人っぽいからとか、そういうのじゃなくて、保育園の時からずっと知ってる落ち着く顔なの!」

「あっ……うん。そういう意味ね。そう。まあ、嬉しくないことはないよ」

「えー、それって嬉しいってことでしょ? 素直に嬉しいって言いなよ」

「嬉しくないことはない」

「相変わらず悠里は回りくどいなぁ」



 よし、可愛い子分の機嫌は少しは取れたかな。

 そう勝手に安心して、あたしもコーラを飲んだ。



「……僕も。僕も、芽依の顔好きだよ」

「マジで? ありがとう!」

「世界で一番可愛いと思ってる」

「またまたー! 子分は親分をたてるのが上手だねぇ」

「むぅ……本当にそう思ってるのに……」



 お世辞を言わせてしまって申し訳ないけれど、あたしと悠里の仲だ。そこまで気にしなくてもいい。



「ねぇ芽依。これからもさ、絶対に芽依のこと守るから。僕、誰にも負けないから」

「うん、よろしくね。でも無茶はしないでよね?」

「自分からはケンカは売らない。でも芽依のためなら買う。芽依は親分だから」

「頼りにしてるよ、子分!」



 悠里さえいてくれれば、あたしの高校生活は安泰だ。

 
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