乙女ゲームの世界でサポートキャラに恋をしたのでイケメン全員落とす話
「なんですかこのしっちゃかめっちゃかした世界は」
私の中では
日本の江戸時代なら時代劇だし
平和のために戦う様な冒険物語ならイメージする舞台は日本ではない
それになにより町を行き交う人々もこの人も和風の衣を着ているのに
髪型が全然和風じゃないし
色も黒一色ではないこの男も少し青みがかった黒髪だし
街行く人の中にはピンクや緑といった現代的な髪色の人も多くいた
甘いと思ったら辛かったような、固いと思ったら柔らかかったような
スッキリとしない気持ち悪さに顔を顰める
「まぁいずれ慣れるさ」
「慣れなくていいので帰りたいです」
方法を知っているなら早く教えてくださいと
キセルの煙を吐く男にズバッと言い放つ
「 本当に? 」
「え?」
窓の外を見ていた男がその視線を私に移し聞いた質問になぜかギクッと心臓が跳ねた
「私の耳には随分と、君の元いた世界の不平不満が聞こえてきたのだけど、本当に帰りたいの?」
「…いや、それと、これとは別で…」
確かにたくさん愚痴ってしまったけど
帰りたくないという訳ではないし、と考えこんで黙っていれば
男のキセルの煙が私の目の前を横切った
「焦ることはない。もう少し考えてみたらいいのではないかな」
煙が揺蕩うその奥で
どこか胡散臭い笑顔を浮かべる男に私は小さく息を吐く
どちらにしてもしばらく関わるのは避けられない
「名前、教えてください。あと貴方が一体何者なのかも」
「あぁそうだね」
トン、と灰皿にキセルを叩き灰を落とした男は
着物をパサッと揺らし私の目の前に座り直す
「この世界の私は時成(ときなり)という名でしがない貿易商人をしている。」
「…この世界の?」
「うん。その時々で滞在する世界が違うからね。名前も職業も定ってはいないんだよ」
「意味が…」
わからない。滞在する世界が違うってどういうこと?
「なので本来の名前は無いけれど、本来の職業というものはあるね。それはーー」
私の頭がぐるぐると混乱している間も男は説明を続けていたけど途中で不自然に途切れさせた。
どうしたのかと不思議に思った時、パタパタと足音らしき音がだんだんと近付いてきている事に気付く
「時成様、サダネ様からお電話が入っております」
足音がすぐ近くで止まり、部屋の外から戸を隔てて女の人の声が聞こえてくると男は二つ返事の後「すぐ向かうと伝えておいてくれ」と返事をした
「かしこまりました」と遠ざかっていく足音を聞きながら、初めて感じた第三者の存在に何故だか無償にここが現実なのだと突きつけられたような心地になる
「さて」と立ち上がった男に顔を向けるとその手はすでに部屋の戸に手をかけていた
「私の事は時成で頼むよ。敬称はなんでも構わないからね」
「え、ちょ…どこ行くんですか」
「聞いていたろう?サダネのところだよ。あぁ、そうか。君はスーツだったか、うーん…これで良いか、ほら。これを着て」
サダネは誰で、どこに行くんですか、という質問すら浮かぶ暇もなく
部屋の戸から戸棚へと踵を返した男から山吹色の羽織りを渡される
「とりあえずこれを羽織って格好を隠そうね」
「いや、あのそうじゃなくて…」
問答無用とばかりに「行くよ」とだけ言ってスタスタと先行く背中を見て慌てて羽織を着て追いかける
途中沢山の部屋らしきところや台所を通り、確かに旅館らしい場所にいたんだとは分かったけど
「ちょ、本当に待ってください!」
玄関で靴を履き替えるやそのままさっさと行こうとする男を呼び止める
そこでやっとこちらを振り向いた顔に
「靴がないです」と叫ぶと「あぁ」と気のない返事のあと「そこにある草履を」と下駄箱を指差した
何足かあるけどどれだ?と思いながら一組手に取り「これですか?」と確認すれば
男はすでに歩き始めていてその背中に声は届いていなかった
ちょっとは待ってくれてもいいのではないかと内心思いながら草履を履いて追いかける
慣れないそれに少しもつれながらもなんとか男に追いついて少し後ろを歩きながらやっと町並みへと目を向けた
それはまるで時代劇のセットのようだった
その中でも学生くらいの歳の子たちがミニスカートのような着物を着ていて
露わになっている生足を見て自分の知る江戸時代とは違うのだと痛感する
「あの時成、さん?何か急ぎの用事なんですか?」
すたすたと歩く様子にもしかしてと聞いてみたけど返ってきたのは「急いでいないよ」という返事でこの男はこれが普通らしい。
「あの、だったら先ほどの説明の続きをお願いしたいんですけど」
「こんな町中では無理だね。世界がなんだと話すのを聞かれれば最悪狂ったと思われて処刑されかねないからね」
「ひぇ…しょ、処刑?」
「とりあえず今は、この世界の空気を感じたらいいのではないかな」
「世界の空気?」
「似ていることは合っても違うものだと理解しなければね。君の中にある歴史や常識はここではあてにならないと覚えておこうか」
なるほど確かに。と納得して
私は改めて町並みを眺めながら歩みを進めた
私の中では
日本の江戸時代なら時代劇だし
平和のために戦う様な冒険物語ならイメージする舞台は日本ではない
それになにより町を行き交う人々もこの人も和風の衣を着ているのに
髪型が全然和風じゃないし
色も黒一色ではないこの男も少し青みがかった黒髪だし
街行く人の中にはピンクや緑といった現代的な髪色の人も多くいた
甘いと思ったら辛かったような、固いと思ったら柔らかかったような
スッキリとしない気持ち悪さに顔を顰める
「まぁいずれ慣れるさ」
「慣れなくていいので帰りたいです」
方法を知っているなら早く教えてくださいと
キセルの煙を吐く男にズバッと言い放つ
「 本当に? 」
「え?」
窓の外を見ていた男がその視線を私に移し聞いた質問になぜかギクッと心臓が跳ねた
「私の耳には随分と、君の元いた世界の不平不満が聞こえてきたのだけど、本当に帰りたいの?」
「…いや、それと、これとは別で…」
確かにたくさん愚痴ってしまったけど
帰りたくないという訳ではないし、と考えこんで黙っていれば
男のキセルの煙が私の目の前を横切った
「焦ることはない。もう少し考えてみたらいいのではないかな」
煙が揺蕩うその奥で
どこか胡散臭い笑顔を浮かべる男に私は小さく息を吐く
どちらにしてもしばらく関わるのは避けられない
「名前、教えてください。あと貴方が一体何者なのかも」
「あぁそうだね」
トン、と灰皿にキセルを叩き灰を落とした男は
着物をパサッと揺らし私の目の前に座り直す
「この世界の私は時成(ときなり)という名でしがない貿易商人をしている。」
「…この世界の?」
「うん。その時々で滞在する世界が違うからね。名前も職業も定ってはいないんだよ」
「意味が…」
わからない。滞在する世界が違うってどういうこと?
「なので本来の名前は無いけれど、本来の職業というものはあるね。それはーー」
私の頭がぐるぐると混乱している間も男は説明を続けていたけど途中で不自然に途切れさせた。
どうしたのかと不思議に思った時、パタパタと足音らしき音がだんだんと近付いてきている事に気付く
「時成様、サダネ様からお電話が入っております」
足音がすぐ近くで止まり、部屋の外から戸を隔てて女の人の声が聞こえてくると男は二つ返事の後「すぐ向かうと伝えておいてくれ」と返事をした
「かしこまりました」と遠ざかっていく足音を聞きながら、初めて感じた第三者の存在に何故だか無償にここが現実なのだと突きつけられたような心地になる
「さて」と立ち上がった男に顔を向けるとその手はすでに部屋の戸に手をかけていた
「私の事は時成で頼むよ。敬称はなんでも構わないからね」
「え、ちょ…どこ行くんですか」
「聞いていたろう?サダネのところだよ。あぁ、そうか。君はスーツだったか、うーん…これで良いか、ほら。これを着て」
サダネは誰で、どこに行くんですか、という質問すら浮かぶ暇もなく
部屋の戸から戸棚へと踵を返した男から山吹色の羽織りを渡される
「とりあえずこれを羽織って格好を隠そうね」
「いや、あのそうじゃなくて…」
問答無用とばかりに「行くよ」とだけ言ってスタスタと先行く背中を見て慌てて羽織を着て追いかける
途中沢山の部屋らしきところや台所を通り、確かに旅館らしい場所にいたんだとは分かったけど
「ちょ、本当に待ってください!」
玄関で靴を履き替えるやそのままさっさと行こうとする男を呼び止める
そこでやっとこちらを振り向いた顔に
「靴がないです」と叫ぶと「あぁ」と気のない返事のあと「そこにある草履を」と下駄箱を指差した
何足かあるけどどれだ?と思いながら一組手に取り「これですか?」と確認すれば
男はすでに歩き始めていてその背中に声は届いていなかった
ちょっとは待ってくれてもいいのではないかと内心思いながら草履を履いて追いかける
慣れないそれに少しもつれながらもなんとか男に追いついて少し後ろを歩きながらやっと町並みへと目を向けた
それはまるで時代劇のセットのようだった
その中でも学生くらいの歳の子たちがミニスカートのような着物を着ていて
露わになっている生足を見て自分の知る江戸時代とは違うのだと痛感する
「あの時成、さん?何か急ぎの用事なんですか?」
すたすたと歩く様子にもしかしてと聞いてみたけど返ってきたのは「急いでいないよ」という返事でこの男はこれが普通らしい。
「あの、だったら先ほどの説明の続きをお願いしたいんですけど」
「こんな町中では無理だね。世界がなんだと話すのを聞かれれば最悪狂ったと思われて処刑されかねないからね」
「ひぇ…しょ、処刑?」
「とりあえず今は、この世界の空気を感じたらいいのではないかな」
「世界の空気?」
「似ていることは合っても違うものだと理解しなければね。君の中にある歴史や常識はここではあてにならないと覚えておこうか」
なるほど確かに。と納得して
私は改めて町並みを眺めながら歩みを進めた