狐火
 私が言うと、ヤコは「それじゃ退屈だよねえ」と頷く。

「僕で良ければ、話し相手になろうか?」

「えっ?」

 固まった私を見て何か誤解したのか、ヤコは慌てて「あ、嫌なら別にいいんだけど」と言う。

「僕も結構暇だから。基本的にこの辺うろついてるし、暇なとき来てくれれば話し相手になるよ」

 確かに叔母さんたちとも別に積極的に話したいわけじゃないし、この調子だと新学期には日本語を忘れてるかもしれない。

 私が考えている間にも、ヤコはひっきりなしに「嫌なら、断ってくれて構わないからね」と話しかけてくる。

 私からすれば、断る理由はなかった。

「……それじゃあ、お言葉に甘えて。でも、毎日会えるかは分からないけど」

「大丈夫大丈夫。僕本当に暇だから。香織が来るまで待ちぼうけてるよ」

 待ちぼうけ……なんとなく意味が違う気がするんだけど。

「それを言うなら『待ちわびてる』じゃないの?」

 一瞬元から丸い目をさらに丸くした後、そうか、そうだね、と呟いてヤコは納得したように頷いた。

「日本語あんまり得意じゃないんだ」

「私とは正反対か。私なんか、国語しか点取れないから」

「それなら作文とか得意だったりする? いいな、羨ましいよ」

 そんな感じで、私たちは本格的に暗くなるまで談笑していた。
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