狐火
 私とヤコはいつもあの柳の木の下で話をしているわけではなく、時々二人で近くの神社や広場まで歩くこともあった。いずれも近場だけど。


 川を渡ったところにある丘に連れて行ってもらったこともある。


 小高い丘からは村の絶景が一望できて、確実に都会では見られなさそうな自然を間近に感じられた。


 興奮して写真を撮りまくる私を見たヤコは苦笑して、 

「そんなに写真撮らなくても……」と少し呆れていた。

「だって、何か形に残るもの欲しいじゃん」

 私が言うと、ヤコは怪訝そうな顔をした。

「形に残るもの?」

「そう。ここにいる証拠っていうか、後で見直せる物がないと、これが幻みたいに消えちゃう気がして」

「ロマンチストだねえ」とからかわれるかと思ったが、意外にもヤコは黙っている。

 その顔に一瞬、切ない色が滲んだように見えた。

「形に残るもの、か……」

 ヤコはそう繰り返す。

 いつものヤコとは違う、遥遠な雰囲気が彼を包んでいるようだった。
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