狐火
 その時だった。

 遥か遠くの山に何か光るものが見え、私は一瞬でその光に目を奪われた。

「何だろう、あれ」

「え?どれ?」

「ほら、あそこの何か光ってるやつ」

 ヤコは目を細めて山を見つめると、すぐに「ああ……」と納得したような声を上げた。

「ここではたまにあるんだ。村の人には、『狐火』って呼ばれてる」

「狐火?」

「そう。昔話によると、狐が尻尾をかち合わせて火を起こしてるらしいよ」

「それ、本当だったら面白いね」

 多分焚き火か何かだろうけど。

 そんな無粋な言葉を押し留め、しばらくお互いに無言で狐火を見つめていた。


 最初は薄くぼんやりした感じの光だったが、日が沈むにつれ光は強くなっていった。

 しばらくすると狐火は山の中で一際大きく輝いて消え、その場には遠くから聞こえる川のせせらぎの音だけが残された。


 私は遠くにそびえ立つ山から目を離さずに、意味もなくヤコに声をかけた。
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