狐火
 私は三日後には帰る予定になっていた。

 ヤコに会えるのは後二日。


 私と離れるのを寂しいと思ってくれているのか、ヤコの表情も少し暗かった。

「明日、浴衣着ていこうかな」

「いいんじゃない? 伝統的で」

「そこはお世辞でも『香織の浴衣姿が見たいな』とか言ってよ」

「僕に夢見すぎだよ」

 二人で話す時間に限りがあるのがもどかしかった。

 夏の夕暮れは、遅いようで早い。

「明日、楽しみにしてるからね」

「僕もだよ。……またね、香織」


 明日が来るのは楽しみだけど、ヤコと過ごす日々の終わりが近づくのが少し恐くもあった。
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