狐火
五
その後も私とヤコは金魚すくいで対決したり、カタヌキに挑戦してみたり、特撮もののお面を見たりして村での夏祭りを堪能した。
ほとんどの屋台を網羅してきたところで、ヤコが言った。
「人混み、結構疲れない?」
「うーん、まあ人混みには慣れてるから大丈夫。ヤコは平気?」
「僕は少し疲れたかも」
ヤコは困ったように肩をすくめた。
「ちょっと人通りが少ないところで休憩したいんだけど、いいかな?」
「あ、全然いいよ。どこ行く?」
「じゃあ……橋のところまで」
私は頷いて、ヤコと一緒に丘の途中にある橋まで向かった。
橋の上からはお祭りの明かりが小さく点々と見えた。地元のお祭りだとお囃子が聞こえてきそうなものだけど、こっちは静かだ。
「思ってたんだけどさあ、この村ではお神輿とかは出ないの?」
考え事をしていたのか、ヤコが一拍遅れてこっちを見た。
「予算が無いみたい」
「うん、予想はついてた」
ヤコは私から目を逸らし、遥か下を流れる川を眺める。
「ここ最近の二、三年で相当衰弱してるんだ。今夜が最後かもしれない」
「それを言うなら『衰退してる』じゃない? お祭りに使うなら」
ヤコはこっちを見なかった。
「香織ともお別れだね」
その言葉を聞いた瞬間、胸を締め上げられるような感覚がした。
そうか、後二日か。
じわじわと悲しみに湿っていく心とは裏腹に、「そ、そんな事ないよ」という乾いた声が口をついた。
「確かに、明後日には帰るし、叔母さんたちも引っ越すみたいだけどさ……。来年もまた来ようかなって、思ってるんだよね。そうすればまた会えるし」
「……ふふっ。また会える、か」
安堵してくれたのかと思った。
でも違った。
こちらを振り返ったヤコは、ぞっとするほど冷たい顔で笑っていた。
「もう会えないんだよ、香織」
その瞳の中に狂気のようなものが渦巻いているように見え、私は思わずその場から飛び退いた。
辺りの空気が一気に冷える。
私、こんなヤコ知らない。