狐火


 その後も私とヤコは金魚すくいで対決したり、カタヌキに挑戦してみたり、特撮もののお面を見たりして村での夏祭りを堪能した。


 ほとんどの屋台を網羅してきたところで、ヤコが言った。

「人混み、結構疲れない?」

「うーん、まあ人混みには慣れてるから大丈夫。ヤコは平気?」

「僕は少し疲れたかも」

 ヤコは困ったように肩をすくめた。

「ちょっと人通りが少ないところで休憩したいんだけど、いいかな?」

「あ、全然いいよ。どこ行く?」

「じゃあ……橋のところまで」

 私は頷いて、ヤコと一緒に丘の途中にある橋まで向かった。


 橋の上からはお祭りの明かりが小さく点々と見えた。地元のお祭りだとお囃子が聞こえてきそうなものだけど、こっちは静かだ。

「思ってたんだけどさあ、この村ではお神輿とかは出ないの?」

 考え事をしていたのか、ヤコが一拍遅れてこっちを見た。

「予算が無いみたい」

「うん、予想はついてた」

 ヤコは私から目を逸らし、遥か下を流れる川を眺める。

「ここ最近の二、三年で相当衰弱してるんだ。今夜が最後かもしれない」

「それを言うなら『衰退してる』じゃない? お祭りに使うなら」

 ヤコはこっちを見なかった。

「香織ともお別れだね」

 その言葉を聞いた瞬間、胸を締め上げられるような感覚がした。

 そうか、後二日か。

 じわじわと悲しみに湿っていく心とは裏腹に、「そ、そんな事ないよ」という乾いた声が口をついた。

「確かに、明後日には帰るし、叔母さんたちも引っ越すみたいだけどさ……。来年もまた来ようかなって、思ってるんだよね。そうすればまた会えるし」

「……ふふっ。また会える、か」

 安堵してくれたのかと思った。

 でも違った。

 こちらを振り返ったヤコは、ぞっとするほど冷たい顔で笑っていた。


「もう会えないんだよ、香織」

 その瞳の中に狂気のようなものが渦巻いているように見え、私は思わずその場から飛び退いた。

 辺りの空気が一気に冷える。


 私、こんなヤコ知らない。
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