狐火
 周りが大騒ぎして病院だ治療だと話し合っているうちに、私はただ一人、狐につままれたような顔で立っている涼に近づいていった。

 半ば二重人格説を確信していた私は、涼の顔を見た瞬間その場に凍りついた。

「二重人格じゃないよ……」

 そこまで大声を出したつもりは無かったのに、周囲は数分前に巻き戻ったようにまた静かになった。

「だって目の色、違う」


 涼の顔はヤコの顔と全く同じだった。

 体つきも、服装も、全く一緒。


 なのに、瞳の色が……ヤコの印象的な金色がかった瞳が、普通の焦げ茶色に変わっていた。

 二重人格で目の色が変わるはずがない。


「妖狐だよ」

 振り返ると、まさに村の長老というイメージにピッタリな、着物を着たお婆さんが立っていた。

 周囲を見渡すと、みんな一様に私と涼、それからお婆さんに注目していた。
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