狐火
「この子は妖狐に憑かれたんだよ」
「ようこ?」
お婆さんは仰々しく頷く。
「この地域に伝わる狐の妖怪だよ。昔から、男に取り憑いてその家の嫁を喰らうんだ。狐火を起こすとも言われている」
私の目に、あの丘で見た灯りが浮かんだ。
「でも、その話が本当なら、妖狐とやらは取り憑いた人の奥さんを食べるんですよね……あれ、私たちって付き合ってたっけ?」
気を紛らわせるためにふざけて涼に聞いてみたが、向こうは「さあ」と無愛想に答えるだけだった。
……言わなきゃ良かった。
私は諦めてまたお婆さんに向き直った。
「付き合ってたかどうかは別としても、私、食べられてないです。今日一日中一緒にいたのに」
「なんであんたを食わなかったのか、それは分からない。……まあ、これで餓えて、消えてくれれば一番良いんだけどね」
『ここ最近の二、三年で相当衰弱してるんだ。今夜が最後かもしれない』
ヤコの冷たい表情と、焦りを含んでいるようにも聞こえた低い声を思い出した。
あの話は、祭りのことじゃなかったのかもしれない。
呆然としている私に向かって、お婆さんは念を押すようにもう一度言った。
「ただ、あんたが見たのは絶対に妖狐だ。憑かれた人の目の色が変わるという言い伝えもある。それに、」
__あれは『野狐』と呼ばれることもあるからね。
「ようこ?」
お婆さんは仰々しく頷く。
「この地域に伝わる狐の妖怪だよ。昔から、男に取り憑いてその家の嫁を喰らうんだ。狐火を起こすとも言われている」
私の目に、あの丘で見た灯りが浮かんだ。
「でも、その話が本当なら、妖狐とやらは取り憑いた人の奥さんを食べるんですよね……あれ、私たちって付き合ってたっけ?」
気を紛らわせるためにふざけて涼に聞いてみたが、向こうは「さあ」と無愛想に答えるだけだった。
……言わなきゃ良かった。
私は諦めてまたお婆さんに向き直った。
「付き合ってたかどうかは別としても、私、食べられてないです。今日一日中一緒にいたのに」
「なんであんたを食わなかったのか、それは分からない。……まあ、これで餓えて、消えてくれれば一番良いんだけどね」
『ここ最近の二、三年で相当衰弱してるんだ。今夜が最後かもしれない』
ヤコの冷たい表情と、焦りを含んでいるようにも聞こえた低い声を思い出した。
あの話は、祭りのことじゃなかったのかもしれない。
呆然としている私に向かって、お婆さんは念を押すようにもう一度言った。
「ただ、あんたが見たのは絶対に妖狐だ。憑かれた人の目の色が変わるという言い伝えもある。それに、」
__あれは『野狐』と呼ばれることもあるからね。