狐火
 あの非現実的な夏の終わりを受け入れることができたのは、涼の存在があったからだ。

 ヤコは人間じゃないし、そもそも本当に何なのか今でも釈然としないけど、涼は紛れもなく実在する人間だ。


 昨日、私は一昨日のことをあれこれ質問してくる叔母を適当に躱しつつ場所を聞き出し、涼の家を訪れた。


 自分の未練がましさにはいい加減嫌気が差してくるが、一度涼に会わなくては気が済まなかった。


 涼は突然の訪問を歓迎するはずもなく、不機嫌さをにじませながら、

「悪いけど俺、本当にお前のこと知らないから」

と言うが早いがドアを閉めてしまった。

 扉が閉まる直前、夏休みの宿題がやりかけのまま机の上に放置されているのが見えた。

 どうやら本当に追い詰められているらしい。


 私は家に帰る途中、何度も涼の顔を思い出した。


 こちらを拒絶するかのように細められた瞼の形は全然変わらないのに、瞳の色は全然違う。

 そのことが、涼は単なる器だということを表しているようで一層悲しかった。



 ヤコは本当に消えたのか、それすらも分からなかった。

 ヤコやお婆さんの発言を聞くとヤコは消えた可能性が高い気もする。


……でも本当は、まだ生きているんじゃないか。
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