狐火
「さてと、荷物はこれで全部かな。さすがに今日はなずなの面倒は見なくていいよ」

 なずなちゃんというのは七歳になる従姉妹。

 私がここに連れてこられた元凶でもある。

 遊びたい盛りの七歳児はどんなものかと身構えていたが、なずなは叔母の後ろに隠れるようにしてこっちを見ているだけだ。相当な人見知りらしい。

「そうだ、香織ちゃんはまだ全然家から出てなかったよね? 夕飯までまだ結構時間あるし、その辺散歩でもして来たら?」

「でも暑いし……」

「日が落ちてるから涼しいよ」

 確かにもう日は傾いてきているが、あの蝉どもが鳴き喚く外に出るのは気が引ける。

「でもなあ……」

「いいじゃない。自然に触れる良い機会だよ。都会にはこんな所まずないでしょ」

「いや、うちもそんな都会ってわけじゃ……」

「川の方には行かないでね。ご飯時になったら電話するよ。はい、いってらっしゃーい」

 勝手に話を進めた叔母は、上機嫌で私を家から追い出した。
< 5 / 35 >

この作品をシェア

pagetop