狐火
 渋々散歩を始めたが、思いのほか外は悪くなかった。


 遠くに見える木々は早くも黒いシルエットになり、夕焼けの空とのコントラストを作り出している。

 田んぼは夕陽が溶け込んだかのようにキラキラしていた。


 時間帯によって鳴いている蝉も違うらしく、蝉の鳴き声はさっきの錆びた車輪みたいな声ではない。


 今の蝉はノイズのような音を残しつつも透き通った切ない声鳴き、村の情景を一層ノスタルジックにさせる。


 近くには少ないながらも家があり、一応人は住んでいるみたいだ。

「なんだ、普通にいいところじゃん」

 しばらく村の風景を見ていると、辺りが暗くなってきた。

 家を出るのが遅かったせいもあるのだろうが、夏の夕暮れはあっという間だ。

 早く帰った方がいい。


 そう判断し、来た道を引き返し始めた。
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