私たち、幸せに離婚しましょう~クールな脳外科医の激愛は契約妻を逃がさない~
なぜ
「薄羽病院まで」
「はい。わかりました」
タクシーの後部座席に座った主真は、走り始めた車の窓を振り返り、レジデンスを見上げた。
通りから見える明かりのないバルコニーに人影はない。
そのまま夜空を見上げると、ふわりと舞い落ちる白い結晶に気づく。
(雪か……)
そういえばあの夜も雪が降っていた。
結婚一周年を迎えたクリスマス。深々と雪が降る夜に、主真は初めて妻の沙月を抱いた。
外の寒さとは裏腹に燃えるほど熱く体を重ね合い、沙月の瞳は、蕩けるような潤んでいた。火照った頬、唇の柔らかさも滑らかな肌の温もりも、すべて脳裏に焼きついている。
あれからまだひと月と少ししか経っていないのだ。忘れようもない。
『二年で十分です。――あなたの好みの女性を見つけ出し再婚を手助けします』
まさかと思うが、あの気持ちは消えてはいなかったのか。約束の二年までまだ一年近くあるというのに、なぜ今なのか。
どんなに考えてみても答えはでそうにない。
気を取り直して腕時計を見た。
夜の九時半。これから緊急手術だ。状況次第だが今夜は帰れないだろう。
ゆっくりと息を吐き、主真は長い睫毛を伏せて瞼を閉じる。
(いずれにせよ、沙月。俺はお前を離さない)
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