私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
「いや、違うんだ。なにもまずくないよ。今日は医局に人が少なかった。結構みんな参加したみたいだな」

「はい。薬剤師も来ていましたし、薄羽関係で十人くらいはいましたね」

「そうか」と、主真は大きく息を吸った。

 食器を片付けて、沙月がいれてくれたノンカフェインのコーヒーを飲む。

 守山が一緒だったからといって、なんだというのか。

 どうかしているぞと思いながら口にした熱いコーヒーが喉を伝って落ちる。

 少しくらい落ち着かせてくれればいいものを、コーヒーはなぜかさらに胸を揺さぶってくる。

 これかも講習会のたびに、沙月は守山と一緒に参加してわからないところを――。

「ところで主真さん」

「ん?」

「そろそろ教えてもらえませんか? 女性の好み」

 思わずコーヒーに咽せた。

「あっ、大変!」

 ゴホゴホと咳き込む主真を慌てて立ち上がった沙月が、背中をさする。

「大丈夫ですか?」

 手で大丈夫だと伝えながら、心で思う。

(ぜんぜん大丈夫じゃない。どうして君は)

 どうして君は、と繰り返し、主真は頭を抱えた。


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