私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
事務室の隣に事務長の部屋がある。
事務長は五十代半ばの穏やかな人で、祖父の代から薄羽の事務方として働き、父の片腕として薄羽を守ってきた。
幼い頃からかわいがってくれた彼は、沙月にとって親戚のおじさんのような頼りになる存在である。
父が倒れたときも、薄羽が機能不全にならないよう事務長が守ってくれたのだ。
どれほどの恩があるかわからない。
その事務長が今、頭を悩ませている。
「失礼します」
唇を結んで沙月は扉を開ける。
事務長は「はい」と微笑むが、顔色がよくない。
さあどうぞと促されて応接用のソファーに腰を下ろす。
「父とは話ができましたか?」
事務長は昨日父に会って話をしてきますよ言っていた。その報告を聞きに来たのだ。
「はい。じっくり話ができて、安心しました。お父様はわかっていらっしゃいます。正直申し上げて、奥様には理事長は無理ですからね」
ホッと胸を撫で下ろす。