私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
 華子は『あなたが心配だから』と、言葉巧みに父にすり寄り、代理ではなく自分自身が理事長になろうと動き始めたらしい。

 仮に父が沙月に後を託したいと思っても、今は無理だ。
 普通に考えて、経験もない二十七歳になったばかりの自分が薄羽の理事長をやり遂げられるとは思えない。それに基本的に理事長になるには医師の資格が必要なはずである。

 だから父も主真の名前もあげたのだ。

 美華が医師の資格を取れば、美華自身がいずれ理事長になる。華子も美華本人もそのつもりでいるに違いない。

 華子の実家の援助のおかげで、薄羽はここまで大きくなったと聞いてはいる。
 今後も変わらぬ関係が続くとしたら、やはり華子に任せるしか道はないが……。

 実際のところはどうなのか、沙月は思い切ってきいてみた。

「あの、事務長。父が継母(はは)と再婚した経緯をご存じですか?」

 事務長は「ええ」と、うなずく。

「当時、先代の理事長、沙月さんのおじいさまは野心がある方でした」

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