私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
 今のような大きな病院になったのは祖父の代からである。それまでは医師が祖父母のふたりという病院だった。

「周辺の土地を買い、病院を大きくして。そんなとき沙月さんのお母様がお亡くなりに」

 事務長の瞼が下がり声が沈む。

「体が弱かったんですよね?」

「ええ、ですがもとから弱かった方ではなかったはずです。私が知る奥様は顔色もよく健康的な方でした。ストレスから体を壊されたと、私は思っています」

「どういうことですか?」

 初耳だ。沙月は母はもとから体が弱かったと聞いていたから。

「亡くなった奥様と理事長は、近くのレストランで知り合ったのはご存じですよね?」

「はい」

 沙月の母は料理が好きで、小さな洋食レストランで働いていた。

 父の一目ぼれだったという。

「先代の理事長に結婚を反対されたのはご存知ですか?」

 沙月はこくりとうなずいた。

 幼い頃、祖父が言っていた言葉をよく覚えている。

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