私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
 仮染めとはいえ自分たちは夫婦だ。結婚して欲しいとお願いしたのは沙月のほうなのに、熱い目をして『君が欲しい』なんて言われたら断れるわけがない。

 ずるいと思う一方で、そう言わせたのは自分のような気がした。

 あのとき、心から願ったのではなかったか。

 ――本当の、彼の妻になりたいと。

 胸のときめきを、もう誤魔化しようがない。

 

「待っていましたよ。いらっしゃい」

 華子はいつになくにこやかに出迎えた。

 華やかな着物という正月らしい装いに気分が浮き足立っているのか。自慢の鼈甲の帯留と揃いの髪飾りをつけている。

 彼女はそれを身につけるときはいつも機嫌がいい。

 自分だけなら構わないが、正月早々主真に嫌な思いをさせたくない。気まぐれな継母の上機嫌ぶりにホッとして密かに胸を撫で下ろした。

「あっ、主真さん、いらっしゃーい」

 リビングに移動し、ソファーに腰を下ろして間もなく、ひょっこりと顔を出したのは美華だった。

 彼女も着物を着ている。

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