私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
 いつかは訪問着を買いたいと思ってはいるが、今の沙月にそんな気持ちの余裕はなかった。

 それだけだ。沙月は着物が嫌いなわけじゃない。

「ねぇ主真さん、そう思いませんか? 着物っていいですよね?」

 上目遣いに美華が主真を窺うが。

 主真は沙月を振り向き「俺が急がせちゃったから、ごめんな」と言った。

「いいえ」

 ふるふると首を横に振る沙月に、主真はにっこりと微笑みかける。

 急がされてなんていないのに、彼はかばってくれたのだ。

 チラリと美華を見れば、彼女は不満そうに唇を歪める。

「ふたりともいらっしゃい」

 笑顔とともに沙月の父が現れると、和やかな空気に包まれた。

「あけましておめでとうございます」

 主真が最初に頭を下げて挨拶をし、正月の会食が和やかな雰囲気の中スタートする。

「美華、手伝ってちょうだい」

「はーい」

 今年の正月も家政婦は休みらしい。

 沙月も席を立った。

「いいのよ。あなたはお嫁にいったんだから」

< 141 / 195 >

この作品をシェア

pagetop