私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
 華子に止められたが、そのままキッチンに行く。

 キッチンは一旦リビングから廊下に出て北側にある。

 思えば沙月は、寝る時間を除きこのキッチンにいた時間が一番長かった。父が不在のときは朝食の準備のほかに、自分と美華のお弁当作りもしたのである。

 学校や仕事から帰ると冷蔵庫のチェックをして、必要ならば買い物に行く。華子の昼食を用意する家政婦がどの食材を使ってしまうかわからないから、計画通りには行かなかった。

 懐かしいというよりも、辛い思い出のほうが多い。

 なにしろここは、父の目が届かず、継母や美華に罵詈雑言を浴びせられた場所でもあったから。

 今でもそれは変わらない。沙月の後ろからついてきた華子は、キッチンに入るなりこれみよがしに大きな溜め息をついた。

「お前、なんなのその格好。お正月だっていうのに見すぼらしいわね。着物じゃないにしても、なんとかできなかったの?」

 沙月の服装はワンピースだ。

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