私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
 言うだけ言って、鼻で笑った美華は、最初から手伝う気などないのだろう。椅子に腰を下ろし、ネイルを施した爪をしげしげと眺める。

「それで、なにを用意すればいいですか?」

 リビングにある十人がけのダイニングテーブルにはお節料理と取り皿に箸、グラスも並んでいた。

「ワインよ」

 主真は今日はオンコールなので、念のためアルコールは取れない。

「うちに来る日だってわかっていて、なんなの? お正月だっていうのに常識がないわね」

 ぐちぐちと文句を言われ続ける。

 沙月が考えて熱湯で作ったおしぼりを用意すると、嬉々として美華が持っていき、沙月が氷を入れて整えたわいクーラーは華子が持つ。沙月はまるでなにもしなかったように、手ぶらでリビングに戻った。

「はいどうぞ」

「ありがとう」と、父。

 ふたりが甲斐甲斐しく父に寄り添う様は、散々見慣れたはずなのに、沙月の胸は複雑に揺れる。

 それでも主真と目が合うと、それだけで気持ちが落ち着いてきた。

 彼の柔らかい笑顔は。すべての闇を祓うだけの清々しさがあったから……。

< 144 / 195 >

この作品をシェア

pagetop