私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――

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 薄羽の実家に正月の挨拶に行ったとき、主真はキッチンでの会話を聞いていた。

 トイレに行くふりをして席を立ち、廊下から耳をそばだてたのだ。

『みすぼらしいわね』から始まり、果てはオンコールゆえに主真が酒を口にできないことまでグチグチと沙月は小言を言われ続けていた。

 これまでなんとなく想像はしていたが、華子と美華の態度は主真の予想を超えていた。華子の声色は剣呑だし口調もまったく違う。美華は言わずもがなだ。

 彼女たち、特に華子の態度は一八十度変わる。

 主真の前では常に沙月を気遣っている様子も見せた。

 にこやかに『沙月も食べなさいな』『沙月、ずっと忙しくて大変だったわね』などと声をかけ、沙月は嫌な顔もせず受け応える。

 何も知らなければ仲睦まじい母娘にしか見えない。

 沙月が置かれているこの状況を、沙月の父はどこまでわかっていたのか。

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