私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
「とりあえず座りなさい。見下ろされているようで嫌だから」
立ったまま手短に済ませたかったが、仕方なく向かいのソファーに浅く腰を下ろした。
「あなた、せっかく管理栄養士の資格を持っているんだから、調理室へ異動しなさい」
「えっ、異動?」
どうしてそうなるの、と絶句した。
「給食部門で欠員が出るそうなの。あなたが異動すれば募集しないで済むのよ」
管理栄養士も調理師の資格も持っているから、異動ははそれほど無謀な話ではないが、経理にいなければ華子の動きが見えない。
それでは困る。
「――今日、父のお見舞いに行くので相談してきます」
「どうしてお父さんに心配をかけるのよ。その程度自分で決められないの? お前はまったく本当に使えないわね」
そのまま席を立ち「待ちなさい!」と止める継母を振り切り急いで理事長室を出た。
華子は追いかけてきそうな勢いだったが、廊下に出てしまえばもう大丈夫。体面を気にする彼女は、理事長室でしか沙月を怒鳴れないから。
「はぁ……」