私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
 借金が増えたとしても、高性能なMRIによっていい結果が出るかもしれないし、アツ・ヘルスが価格を大きく抑えてくれるのかもしれない。

 沙月の父が華子と再婚したのは祖父の指示だったという。当時、彼女の実家の大きな支援もあって、薄羽病院は今日までに成長したのだと、沙月は祖母から聞かされていた。

『だから、多少辛いことがあっても我慢するんだよ、沙月。嫌なことがあったらおばあちゃんのところに遊びに来ればいいから』

 その祖母は沙月が高校生のときに亡くなり、祖父ももういない。相談する相手は病に倒れた父だけだ。

 つらつら考えながらバスを降りると、少し冷たい風が吹き抜けた。

 コンクリートに囲まれた街中と違って緑が多く、それだけで心休まる道を進むと病院がある。

 樹木が立ち並びリハビリを兼ねた遊歩道になっている庭を横目に、白っぽい壁の病院に入った沙月は受付を澄ませ入院の病棟に入っていった。 

 父の病室はドアが開いていて、父はベッドではなくソファーに腰を下ろし、新聞を読んでいる。

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