私たち、幸せに離婚しましょう~クールな脳外科医の激愛は契約妻を逃がさない~
 家事をまったくしない父は「へえ、そうなのか」と、感心する。

 うれしそうに微笑む父に、沙月は思いつく限りの幸せな結婚生活の話をしようと思った。

「最近は私がお弁当を作ってあげているんだけど、今度お礼に食事に連れて行ってくれる約束をしているの」

 でも、悲しいかな、それ以上は何も思い浮かばない。

 どんなに優しい人でも、寝室が別の契約夫婦だ。

 彼とはあと一年とちょっとで離婚しなければいけないのである。

 ――薄羽を、彼が継ぐことはできない。

 父には言えない、父の知らない事実に悲しみが込み上げる。

 笑顔が崩れそうになり、沙月は慌てて席を立つ。

「お父さん、ゼリー食べよう」



 病院からの帰り道、沙月は空を見上げながら大きく息を吐いた。

 なぜ父が美華ではなく沙月に継いでほしいのか。理由は結局聞けなかったけれど、父がそう考えてくれているのは素直にうれしいかった。

 薄羽を思う気持ちは誰にも、もちろん美華にも負けないという自負はある。

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