私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
 父の期待に応えたいと決意を胸にキュッと唇を結ぶ。

 それには主真と離婚した後を現実的に考えなければならない。沙月ひとりでも薄羽を守っていくためには何が必要か、何を準備したらいいか。

 途中書店に立ち寄って、病院の経営に関係していそうな本を探していると。

「あれ? 沙月さん」

 振り向くと、薄羽の医師、守山がいた。

 彼は主真と同年代の脳神経内科医だ。穏やかで好感度が高く、患者にも病院のスタッフにも評判がいい人物である。

「こんにちは守山先生。今日はお休みでしたか」

「いえ、用事があって出掛けたついでに立ち寄ったんですよ」

 彼の視線が、沙月が持っている本に注がれた。

「経営の勉強ですか?」

「父のお見舞いに行ってきたんですが、なにもできないので、せめて勉強くらいはしようかと」

 気恥ずかしさに頬を染める沙月に守山は微笑みかける。

「薄羽先生には早く戻っていただきたいですが、無理はしないでほしいですしね」

「そうなんです」

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