私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
 探るような華子の目を見据え、主真はにっこりと微笑んだ。

「すみません。実は俺が、他人に出入りされるのが嫌なんですよ。なんだか〝監視〟されているような気がして」

 果たして華子はギョとしたように顔をひきつらせる。

(なるほど、図星ですか)

「や、やだわ監視だなんて」

「ドラマでもあるじゃないですか、家政婦が覗き見とかね」

「主真さんたら」

 口もとに指先を添え、あははと大げさなほど笑い声を上げる華子に主真は苦笑する。

「――あ、すみません時間なので失礼します」

 女狐め、と咥内で吐き捨て背中を向けた。

 レジデンスの主真の寝室沙月の寝室は離れている。監視が目的なら掃除を理由に夫婦関係も探るかもしれない。なんにせよ仮面夫婦だと感づかれたら厄介だ。

 沙月が嫌がる理由が見えた気がした。

 いったい彼女は実家でどんな暮らしをしていたのか。

 沙月に暗い陰はないが、彼女は妙にあきらめがいいところがある。実家に家政婦がいたにしては家事の手際はいいのも不自然だ。

< 62 / 195 >

この作品をシェア

pagetop