私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
 だが、これからはそうも言っていられない。

 それが沙月のためならば……。

 たとえ期限付きでも夫として全力で彼女を支えたいと、心から思った。

 医局に戻り、テーブルの上にあるチラシに目を留めた。『人数に空きがあるそうなので、興味がおありでしたらどうぞ』と、事務員が書いたらしき付箋紙がついている。

「地域医療のシンポジウムか」

 ひとりごちて時計を見た。

 日にちは今日、昼から出かければちょうどいい時間である。

 まずは自分なりに、薄羽病院の将来像を具体的に描くことから始めるか、と考え参加を決めた。


 そして――。
 主体性を持って真剣に聞いたせいか、収穫はあった。

 今のように漠然とではなく、地域のクリニックとの連携も明確にしたほうがいい。薄羽で高度な治療を終えた患者を逆紹介する場合を含め、システム化できないものだろうか。

(普段から気になっているひとつ一つを事務長と相談してみよう)

 シンポジウムが終わり、そんなことを考えながら会場をでると、不意に声をかけられた。

「主真?」

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