私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
 だが言われてみれば、沙月を疎ましく思ったことは一度もない。考えるまでもなく自然と受け入れていた。

「それはまあ……そうだが」

 だが、慎一郎のように恋愛で結婚するのとは根本的に違うと思うのだ。

 見合いでなければ。条件つきでなければ、自分たちは夫婦にならなかっただろう。

「なんだ、もしかして主真、結婚を後悔しているのか?」

「いや、それはない」

 慎一郎は弾けたように笑う。

「即答か。しかも言い切ったな」

「後悔はしていないってだけだ」

 憮然と答えた。

「それで?二年後、どうするんだ?」

「別に、予定通りさ」

 言いながらたた心がズキッと痛み、視線が泳ぐ。

 もし沙月と普通に出会っていたらどうだっただろう。

 恋愛に発展し、やはり結婚したのか? 主真はふと、そんなことを考えた。



***



 時刻は夜の九時。

「じゃあ、よろしくお願いします」

 主真は引き継ぎの医師に軽く頭を下げた。

「了解です。ゆっくり休んでください」

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