私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
 その気持ちはわかる。沙月の父、薄羽先生は脳神経外科医として腕もいいが後輩の面倒見もよく人望があった。主真が沙月と結婚を決めた理由のひとつでもある。

 守山は脳神経内科医だ。外科ではないが、同じ脳神経科医として薄羽先生から学ぶところが多かったに違いない。

「ですが、これからはどうしようかと」

 守山は夜空を見上げたまま、ぽつりと言った。

「ここにいる理由も、ありませんしね」

(えっ?)

「では、失礼します。車は向こうにあるので」

 聞き返す隙を与えず、守山は足早に去っていく。

 その場に残された主真は、しばし呆然と彼の背中を見つめた。

 あと二か月もすれば、沙月の父は戻ってくる予定だ。外科医としての復帰は無理かもしれないが、まずは理事長として。それから少しずつ現場に帰ると聞いている。

 そのあたりの事情は彼も知っているはずだ。

 では、彼の言う〝ここにいる理由も、ありませんしね〟とはなにを指すのか。

 ふと沙月が浮かんだ。

< 70 / 195 >

この作品をシェア

pagetop