私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
『結婚すれば少しは落ち着くかと思ったけれど。よく言って聞かせますからね』

 だが、そこまで言われて黙ってはいられなかった。

『恋愛感情のある笑顔ではありませんね』

『えっ?』

『俺は彼女が俺だけに向ける笑顔を知っていますから、ご心配なく』

 華子の顔がおもしろいように歪み、思わず笑った。

『皆に好かれる妻を持てて、俺はとても幸せですよ〝おかあさん〟――では』

 言い捨ててその場を去ったが、おそらく彼女は苦虫を潰したような顔をしていただろう。

 正直に言ったまでだ。

 この病院に来てわかったが、沙月は老若男女隔てなくかわいがられている。

 医師だけじゃない。事務員に看護師、清掃スタッフとも楽しそうに話をしていて、彼女の周りは常に笑顔が溢れている。

 沙月は別に、若い男にだけ笑顔を向けるわけじゃない。だが――。

 もし守山が沙月を好きならば。〝ここにいる理由〟が彼女だったとしたら。

 結婚の話があったのが本当なら、なぜ結婚しなかったのか?

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