私たち幸せに離婚しましょう――契約結婚のはずが、エリート脳外科医の溺愛が止まらない――
 考え込みそうなり、そんな自分にハッとした主真は、雑念を振り切るように顔を上げた。

 二年の約束だ。

(俺は二年だけ、夫を演じ、薄羽を盛り上げればいい)

 それ以上は沙月も望んでいないと、気持ちを落ち着けた。



 レジデンスに帰り、まずは湯船に浸かって医師としての鎧をお湯に溶かす。

 瞼を閉じて、細く長い息を吐く。

(出迎えがなかったな)

 主真の帰宅に気づけば沙月は必ず『おかえりなさい』と顔を出す。

 だが姿を見せなかったところをみると、自室にいて気づかなかったか。あるいは出掛けているのかもしれない。

 ごくたまに薄羽のスタッフと食事や飲みに行ったりするようだが、今朝はなにも言っていたなかった、と考え込む。。

 できれば今日中に、明日は一緒に食事に行こうと伝えたい。

 もし沙月に予定がないようなら、昼から出かけるのはどうだろう。ショッピングをしたり、疲れたらお茶でも飲んで、なんだったら映画を見たりして。

(それじゃデートだな)

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