告白
告白
「あ」
CDショップでCDを試聴しようとしていたら、隣に立っていた恭介が口を開いた。
「なに。どうしたの?」
「数学の課題提出してくんの忘れた。別にいいけど。」
「ふーん」
恭介はヘッドホンを取り別のCDを試聴し始めた。
……サラサラの髪。
長い睫毛は目の前で伏せられて。
すっときれいな顎のラインはもはや芸術品。
見ていると丁度いい大きさのつぶらな瞳が今度は無感動に瞬きした。
釣り合わないものを好きだというのには苦労する。
恭介と付き合いだしてから、私は友達にやっかまれてすぐにハブられた。
あっちは友達多いしこっちは少ないしで、教室でいつも一人は常套。
恭介に言うと、恭介はやる気なさそうに、
「僕と付き合ってるんだから、しょうがないんじゃない」
と言って、相手にしてくれなかった。
もしかしたら恭介の外見を好きなのかも、と思う。
優しくないし暗いし自分勝手だし人の話は聞かないし、無口な謎のキャラ立ちで保っていなかったら恭介は人格崩壊案件の男だ。
私の愚痴や新しい話に「あ、そ」とだけ応え、何を考えているか分からない。
私をハブらない一番親しい友達はこう言った。
「芽依は、恭ちゃんじゃなくて、恋すること自体に夢中になってるんだよ。」
それが本当ではない事が、他でもない私にだけ分かっている。
恭介は、CDを聴き終わると、ジャケットだけ見て、私に「ありがち」と呟いた。
学校帰りの私達はCDショップから出ると、通学路の道を歩き出した。
「せーしゅんって、彼氏と一緒にCDショップへ行くことだと思う。」
「なんか言ってる。そうやって言っておいて、次の日はすぐまた違う事を言い出すんだから。」
「この一瞬が、ってそう思う。空も空気も通りすがりの人達も、私達を祝ってる。」
「そんなこと。明日になったら忘れてるよ。」
恭介はいつもそっけない。
私ばかりが好きなのかと思う。
人が孤独で、一方を一方がどうしても理解しきることが難しいなら、いっそ私は私ばかりが好きでいい、とそれは私の中である種の決意となる。
信号が赤になったので、私達は歩道橋の階段を登った。
小さな店店の並び、遠くの方に線路が見える。
歩道橋の上から見る景色は、いつも少し切ない、と思う。
それは通りすがりの人達が歩いているのが上からよく見えるからかもしれないし、恭介の淡い色の髪が光によく透けてもっと淡くなるからかもしれない。
下のコーヒーショップの並びの上に真っ赤な夕陽が丸ごと落ちている。
「恭介」
「なに」
私が言った。
「これから守ってくれなくても、弱い自分を許してくれなくても、甘える事を拒まれても、強くなれって面と向かって言われても、嫌われても、私はあなたが好きだよ」
恭介が無感動に目を瞬いた。
「どうしたの?。急に。」
「人と付き合ったり、特に心から好きっていうのは、本当は体力が要ることなんだ。私はそれについて考えてる。」
「ふーん、僕はそういうのはどうでも良い。」
恭介が微笑んだ。
「きっとお前は自分の気持ちを顕彰したいだけで言ってる。」
「酷い言い方するなあ。」
「人はみんな愚かにも自分勝手に自分の気持ちを表明しては苦しんでる」
恭介が手摺に手をかけた。
心地よい風が恭介の言葉を乗せて吹いていった。
「ただ僕は、お前が僕を好きだって言ったのと、そういう事があったって事を忘れない。」
恭介は振り返らずに階段を下り始めた。……。