奪われた命、守りたい心
一瞬、ふたりの間に張り詰めた沈黙が流れた。颯真は深く息を吸い、少し冷静な口調で言った。

「春華、気持ちは分かる。でも、一人で抱え込むな。俺は君のそばにいる。どんなことだって支えるから、もっと頼ってくれないか?」

「……頼ってほしいなら、止めるなんて言わないでよ。」

「止めるよ。君を守りたいから。けど、それだけじゃない。俺だって、君の父さんの事件の真相を知りたい。だから、協力させてくれないか?」

春華の目から涙が零れ落ちた。



春華は颯真の胸に顔をうずめ、しばらく泣き続けた。颯真は静かに彼女を抱きしめ、優しく囁いた。

「俺がいるから、大丈夫だよ。何かあったら、すぐに言ってくれ。」

春華は顔を上げ、頷いた。頬には涙が残り、その目には決意が宿っていた。

「ありがとう、颯真さん。でも、私がやらなきゃいけないことなの。お父さんの仇を取るために、私は何が何でもこの真実を暴かないと。」

颯真はその言葉を聞き、少し微笑みながら言った。

「分かったよ。でも、無理はしないでな。俺も協力するから、君が無事でいられるように。」


颯真の言葉に少し安心し、春華は少しだけ心を軽くした。しかし、心の中で決して譲れない思いがあった。父の仇を取るためには、どんな犠牲を払ってでも真実に辿り着くしかない。

その晩、颯真と食事を終えた後、春華は颯真に見送られながら帰路に着いた。颯真の言葉を反芻しながら、心の中では既に次のステップを考えていた。

「彼に協力を頼んでしまったけど、やっぱり私ひとりでやらないと……。颯真には絶対に危険なことをさせたくない。」


次の日から、春華は大学の合間を縫って父親の事件に関する調査を本格的に始めた。颯真に手伝うふりをしながらも、彼に頼ることなく、独自に情報を集め始める。彼の目を盗んでこっそりと調べ続けた。

颯真は時々連絡をくれて、会うたびに「無理しないで」と言ってくれたが、春華はその言葉を無視していた。颯真の言葉には、確かに心からの気遣いが込められていたが、それでも春華は一人で突き進むことを決めていた。


颯真は春華が一人で調査を続ける姿を見守りながらも、心の中で少しずつ不安を感じていた。彼女の強い意志を理解してはいたが、同時にそれがどれほど危険なことであるかも理解していた。だが、彼は直接的に止めることができなかった。

「彼女の決意が固すぎる……」
颯真は心の中で呟き、春華を密かに見守り続けた。協力するふりをして、実際には遠くからその動向を探り、もしもの時に手を差し伸べるつもりでいた。

彼は春華が危険なことに巻き込まれないように、そして必要な時にだけ手を貸すことを考えていた。だが、彼が思い描いていた通りには物事が進まないことを彼は心のどこかで感じていた。
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