奪われた命、守りたい心
その夜颯真は春華の部屋を訪れていた。
春華は、総理大臣との繋がりを示す証拠を手にし、決意を固めていた。しかし、颯真が訪れた時、彼にその思いを伝えなければならなかった。
「颯真さん、私はもう決めたわ。」
春華は証拠を手にし、真剣な表情で颯真を見つめた。
「お父さんが命をかけて守った世界、私はもう誰にも傷つけさせない。この証拠を暴くために、私はやらなきゃいけないの。」
颯真は少し驚いた表情を見せたが、すぐにその眉をひそめた。
「春華、それはダメだ。君がそんな危ないことにかかわったら、どうなるかわかってるのか?お前が命を危険にさらすようなことを、俺は絶対に許さない。」
颯真の声には、彼女を守りたいという強い思いが込められていた。
春華はその言葉に反発し、強く言い返した。
「分かってるわよ!でも、私がどうしてもやらなきゃいけないの。警察に頼ったって、父の死の真相は絶対に明らかにならない!だって、あの事件、誰かが隠そうとしているんでしょう?」
春華の言葉は、颯真の胸に鋭く刺さった。彼が言いたいことはわかる。だが、今の状況ではどうしようもない。
颯真は顔を歪め、手を振った。「だからと言って、君が独りでこんな危険なことをして、どうするんだよ!」
「私は一人でやるの。もう、これ以上誰にも頼らない。お父さんを守るために戦ってるのよ!」
春華は強い口調で言い放った。
颯真はその言葉に怒りと困惑を隠せなかった。目の前にいる春華を失いたくないという思いが、彼の心に押し寄せる。
「春華、頼むからそんなことはやめてくれ。こんな証拠を握って、何かあったらどうするんだ。お前が巻き込まれるようなことがあったら、俺……」
言葉を詰まらせ、颯真は目をそらすことなく、春華を見つめた。
「お前は、お父さんが危険なことをしてでも、その真実を追い求めるようなことを願ってないだろ?」
颯真の声は低く、真摯なものだった。彼の心の中では、春華が無茶をすることを絶対に避けてほしいという気持ちが大きくなっていった。
春華はその言葉に、少しだけ沈黙したが、やがて強い決意を見せて再び言った。
「でも、私はお父さんのためにやることを決めた。何があっても、私はその真相を暴かなくちゃいけない。」
春華は証拠が入った封筒を強く握りしめ、颯真を見つめた。「颯真さんには関係ない。私のことは私が決めるから。」
颯真は言葉を詰まらせ、さらに怒りを深めたが、春華の強い意志を前に、何も言えなくなった。しばらく無言で彼女を見つめ、やがて深いため息をついた。
「君がそんなに決意を固めているなら、もう止めることはできない。でも、絶対に無茶だけはしないでくれ。俺は……俺も君のことが心配なんだ。」
春華はその言葉を受けて、少しだけ表情を和らげた。「ありがとう、颯真さん。でも、私は大丈夫。私は一人でやる。これが私のやるべきことだから。」
彼女の目には強い光が宿っていた。
颯真は、春華が決して引かないことを感じ取り、心の中で葛藤が続いた。「お前が無事でいてくれれば、それだけでいいんだが……」と彼の心の中で重く響く思い。
「でも、お願いだ、無茶をしないでくれ。」颯真はそう言い、春華を見守り続ける覚悟を決めた。