奪われた命、守りたい心
春華は証拠を押さえるために慎重に動き、ついに総理大臣とヤクザの繋がりを示す決定的な証拠を手に入れた。しかし、その瞬間、彼女は後ろの物音に気づかなかった。すぐに周囲のヤクザの仲間たちに囲まれ、春華は逃げることができなかった。

「捕まえろ!」仲間たちが冷たい声で命じ、春華はあっという間に囲まれてしまう。

「お願い、放して!」春華は必死に抵抗したが、力で押さえつけられ、動けなくなってしまった。何とか隙を見つけて逃げようと試みたが、その時、後ろから銃声が響いた。

「うっ!」春華はその瞬間、背中に鋭い痛みを感じ、動けなくなった。すぐに膝が崩れ、地面に倒れ込む。血がじわじわと流れ出し、視界がぼやけていく。痛みと恐怖に顔を歪めながら、春華は最後の力を振り絞り、周囲を見渡した。

「どうして…こんな…」春華はぼんやりと、泣きたくなる気持ちを押し殺しながらつぶやいた。彼女の頭の中には、父親のことや、颯真の顔が浮かんだ。しかし、そのすべてを守るために、自分が命をかけた意味が分からなくなってしまいそうだった。


颯真は春華からの電話が繋がらないことに苛立ちながら、再び携帯を取り出して番号をダイヤルした。もう、何度目だろうか。心配で胸が押し潰されそうだった。発信音が響くたびに、彼の不安は増していった。

「頼むから、出てくれ…」颯真は小声で呟きながら、指先で携帯を握りしめていた。

その時、ようやく電話が繋がった。颯真はほっと胸を撫で下ろすが、次の瞬間、電話の向こうからは春華の震えた声は聞こえなかった。

「春華…?」颯真はすぐに呼びかけた。声に明らかに焦りがこもっていた。「どこにいるんだ?大丈夫か?」

だが、電話の向こうからは、春華の声ではなく、空気が震えるような不規則な音しか返ってこなかった。

「春華!?」颯真は再度強く叫びながら、耳を澄ませた。何かが起きている。彼の胸が急激に痛んだ。

その時、電話がガラガラと音を立てて切れた。颯真は手に汗を握り、必死にもう一度かけ直したが、今度は全く繋がらない。繋がらない電話に、心の中で不安と恐怖が交錯する。

「春華…お願いだから、無事でいてくれ!」颯真は息を呑み、慌てて家を飛び出した。

途中、車の中でも電話をかけ続けたが、再び繋がることはなかった。呼吸を荒げながら、彼は車を急加速させ、現場へと向かっていた。

そして現場に到着した時、颯真は息を呑んだ。目の前には倒れている春華の姿があった。血がじわじわと地面に広がり、彼女の顔は青ざめていた。

「春華!」颯真は叫びながら駆け寄り、膝をついて彼女を抱き上げた。


颯真は春華の体を抱き上げると、ふと彼女の手が何かを握っていることに気づいた。血で濡れた手のひらから、何か小さな物が見えた。それは春華が必死に守り抜こうとした証拠のファイルだった。

颯真はその証拠を手に取ると、言葉もなくじっとそれを見つめた。春華が今、命をかけて守ろうとしたもの――それが今、彼の手に渡ったのだと、彼は感じた。

「春華…」颯真は彼女の名前を呟き、証拠をしっかりと握りしめた。これで、すべてが終わるわけではない。しかし、この証拠があれば、彼女が果たした役目が無駄にならないことを、彼は心の中で誓った。

「必ず…お前を助けるから。」颯真は春華の顔を見つめながら、力強く言った。そして、すぐに彼女を車に乗せ、急いで病院へと向かう。頭の中では春華がしてきた決断、そしてその背負った重みがぐるぐると回っていた。

途中、車の中で証拠を見直しながら、颯真は心の中で悔しさと怒りが湧き上がるのを感じていた。彼ができることは、今は春華を助けることだけだ。そして、この証拠を使って、すべての真実を暴かなくてはならない。

「春華、待っててくれ…俺が必ず守るから。」颯真はそう心に誓い、足早に病院を目指して車を走らせた。











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